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ようやくアフターファイブ(5時じゃないけど)です。
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『True face 1 』 *GL Department store シリーズ Vol.5
閉店後のデパート。
フロアごとに閉店作業やそれにかかる時間は異なるのが常で、食料品フロアなどは朝の準備に入るのも早く、また片付けと翌日の仕込みにかかる手間と時間も長い大変なフロアだ。
それに比べるとゾロの所属する婦人服フロアは、翌営業日の準備を終えたスタッフが退店するのも比較的早いフロアといえる。
各ショップのスタッフがそれぞれの閉店作業を終えて、お互いに声を掛け合いながら帰っていく。
その声を聞きながら、遅番だったゾロはフロアの見回りを兼ねて共用スペースの消灯を確認しながらフロアを歩いていた。
「あ、ロロノアさん。」
いつもの巡回ルートを通って進んでいると、ショップの中からナミが声を掛けてきた。
「うちのウソップから伝言です。」
そう言ってなにやら書類のようなものを手渡してくる。
まだ他のショップのスタッフもいるから口調も他人行儀なままだが、ゾロとナミが「ただの飲み友達」というのはこのフロアのすべての人間が(どころかこの百貨店の従業員のほとんど全てが)周知の事実で、いまさらという気がしなくもないとゾロは思う。
けれど、そう知れ渡るまでの数ヶ月、周囲からの嫉妬まがいの詮索の多さにげんなりした日々を送っていたナミは未だに警戒を怠らないのだ。
手渡されたA4サイズの紙には、なにやら地図が印刷されていた。
添えられた文字からそれが今夜飲みに行く先の居酒屋だとわかって、ゾロは呆れたようにナミを見た。
初めていく店でもないのに、なぜわざわざ地図なんて。
そんなゾロの思いを向けられた視線から感じ取ったのだろう。
ナミが事務的な口調と表情は崩さないまま言葉を続けた。
「ウソップが言ってました。それ、もう一人の人に渡して確認してもらってくださいって。」
もう一人の人。
それはあのカフェのコックのことだろう。
だがしかし、なぜわざわざあいつに確認を取れなどと言われるのか分からずにゾロは眉をひそめる。
あいつはこの店に来るようになったばかりで、こんな風に閉店後に飲みに行くのなんて始めてかも知れないのに、そんなやつに地図を渡したところで場所が分かるはずもない。
「あー・・・・・・・、必要ないんじゃ・・・」
言葉を選びつつ言い返そうとしたゾロをナミが視線で黙らせる。
「確認してください。いいですね?」
「・・・・・・・・・・・・了解・・・。」
何言ってんだ、二人とも。
と内心思いながら、ゾロは地図を手にしたままフロアの巡回に戻った。
歩きながら地図にちらりと目をやると、地図の下に走り書きのようにナミの筆跡でメッセージが添えてある。
しかしそれはゾロに宛てたものではなかった。
『私とウソップは先に行っているから二人で後から来てね。
デパートを出て駅の反対側からすぐだから分かると思うけど、何かあれば電話して。』
そこまではいい。
問題はその後の一文だ。
それを読んでゾロは思わずこの地図をそのまま廃棄してしまおうかという思いに駆られたが、そんなことをしたのがナミに知られたときの被害を考えてぐっとこらえると、地図を手にしたままカフェへと向かったのだった。
フロアの奥に位置するカフェは、しんと静まり返っていた。
照明もほとんど落ちていて、明かりがあるのは店奥の厨房の一角だけのようだ。
水を流すような音が聞こえるそちらへとゾロは足を向けた。
ゾロが声を掛けるより早く水音が止まった。がたがたと何かを動かすような音がしたかと思うと、厨房からひらりと金色に光るものが覗いた。
「あ、お疲れ。」
ゾロの姿に気が付いて、サンジが片手を挙げる。
それに頷いて答えて、ゾロはサンジがまだコックコートのままだということに気が付いた。
「・・・・・・・・・まだ終わらないのか。」
「ん?・・・・・・ああ、いや、もう終わったとこだ。」
ガスの元栓も締めたし、あとは着替えて電気消して終わり、とサンジが手順を確認するように言いながらゾロに向かって笑った。
よく笑う男だ。
サンジに出会ってから何度目かの感想をゾロは頭の中で繰り返す。
「おまえは?まだかかるのかよ?」
「いや、俺ももう終わる。あとは事務所のパソコン落として鍵の確認して・・・」
「あ、じゃあ一緒に行こうぜ。ってか俺場所知らねぇし。」
『連れてってくれんだろ?』と屈託なく笑うサンジに、ゾロは一瞬手にしていた地図を握りつぶしそうになってしまったが、なんとかこらえてそれをサンジへと差し出した。
「へ?」
一瞥して店の地図と分かるそれに、受け取ったサンジがちょっと目を丸くしている。
しかし、次の瞬間、サンジが何かをこらえるような微妙な顔つきになった。
ナミからのメッセージを読んだのだ。
「・・・・・・・・・・・おまえ、方向音痴なの・・・?」
笑いを含んで震える声で言いながら、サンジがゾロを見る。
「・・・・・・・・・・・そんなことは」
「だって、ナミさんが。」
否定しようとするゾロの言葉をさえぎって、『あはははは』とサンジが遠慮なく声を上げて笑い出した。
ゾロはむっとする気持ちを隠しもせずに顔をしかめた。
「あ、あはは、ははっ、『連れてきてあげてね』って、俺、初めての街なのに・・・?」
笑いが止まらないというように身を折って笑い続けるサンジに、ゾロはくるりと背を向けた。
すたすたとカフェを出ようとするゾロの背後に、サンジが慌てたように後を追いかけて来る足音が聞こえる。
「あ、あはは・・・・・・ご、ごめんって。悪かった、笑ったりして!」
不意にサンジがゾロの腕を掴んだ。
驚いたゾロが思わず立ち止まる。
腕を掴んだまま、サンジはまだ笑いの残る目元をしながら、ちょっとすまなそうに首をかしげてゾロを見ている。
「悪かったって。ちょっと・・・・・・・・・・なんてのかな、意外性?」
「あぁ?」
意味が分からず、むっとした気分のまま声を跳ね上げたゾロに、サンジがへにゃんと眉を下げる。
くるりと巻いた眉がサンジの感情に沿って思いのほか器用に動くことに気が付いて、ゾロのほうが思わず笑いそうになった。
しかし、ここは笑うとこじゃねぇだろと、思わず笑いをぐっとこらえたせいでゾロの表情がいっそう険しくなって見えたのか、サンジが情けなさそうな声を出してゾロのほうへと身を乗り出してくる。
「だから、悪かったって!なんか、意外だなって思ったんだよ!」
「・・・・・・・・・・意外って、なにが。」
「だーかーらーっ!なんか勝手にさ、おまえはこう・・・弱点とかなさそうって言うか、しっかりしてそう、みたいな?」
「・・・・・・・・・・なんのイメージだ、そりゃ。」
「だから!俺の勝手なイメージだってんだよ!!悪かったって!」
そう言って、サンジはもう一度『悪かった』と謝ってから、へらりと笑って見せた。
「なんか・・・・・・・・・・・・嬉しいかも。」
「・・・・・・・・・・はぁ?」
「ナミさんに聞いたんだけど、おまえって俺と同じ年なんだってな。同じ年のヤツなのに、なんかすげぇデキルやつっぽかったから、ちょっと悔しかったんだけど。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「弱点もちゃんとあるんだってわかって、なんか嬉しいってかさ。」
『へへ』とサンジがどこか照れたような笑いを浮かべてゾロを見ている。
「・・・・・・・・・・・・・・・弱点てほどじゃねぇ。」
「そ?じゃあ俺のこと、この店まで『連れてって』くれる?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
にやりと悪戯をたくらむ子供のような笑みを浮かべたサンジに、ゾロがまた押し黙る。
サンジはもう一度声を出して笑うとゾロの腕を掴んでいた手をようやく離して その背中をバンバンと遠慮なく叩いた。
「俺、着替えてくっからさ。お前も片付けちまえよ、な?」
「・・・・・・・・・・・分かった。」
支度ができたら階段のところに来い、と告げてゾロは今度こそカフェを後にする。
その背中に、サンジが『分かった』と笑い混じりの声を投げかけてきた。
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百貨店第5話です。
ようやくゾロとコックさんの会話が進み始めています。
やっぱり二人のシーンを書いているのが一番楽しい・・・!
原作でも、もっと二人で会話してくれたらいいのになあ。