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ウソップ登場。
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『Tea time Meeting』 *GL Department store シリーズ Vol.3
予定通りなんとか進んでいる業務の進捗を頭の中で確認しながら、ゾロはフロアを歩いていた。
火曜日の午後。
天気も良く気温も心地よいこの日の来店者数はまずまずというところか。
日々の生活必需品を扱う販売が主体ではない百貨店は、天気や気温に来客数を多少なりとも左右されるところがある。
毎日の天気予報だけでなく、週間予報、果ては長期の天候予測までにも目を向けて、長いスパンでの販売計画を立てることが必要になる、なかなか戦略的な要素を含むというのがゾロの勤務する百貨店という業界だ。
通路両側に並ぶブランドショップの様子に目を配りながら歩いていたゾロは、あるショップの前を過ぎようとして、中から目で合図されたのに気が付いて足を止めた。
この婦人服フロアでも一、二を争う売上を誇る人気ブランドショップ『T・・・』のショップスペース内には、数人の客と対応するスタッフの姿がある。
客たちに会釈をしながら、ゾロはショップ内に入る。
商品が展示されたスペースの奥にはショップスタッフが雑務をこなすためのカウンターが設置されていて、そこに店長のナミともう一人、男の姿があった。
「あ、ドウモ。ご無沙汰シテマス。」
振り返った男がどこかカタコトな口調で笑いながら、ゾロに挨拶してくる。
別に日本語が不自由なのではなく、ゾロ相手に丁寧な口調で話すのが慣れない・・・というだけのその男の名はウソップ。
ナミが店長を務めるこのブランドの日本法人の宣伝部のスタッフだ。
今までにもこのショップに関する業務で何度もこのデパートを訪れていてゾロとは顔なじみだし、なによりウソップが顔を見せるたびに「親睦会」と称してナミがゾロとウソップを飲みに引き摺っていこうとするので、いつの間にかすっかり友人付き合いをするまでになっている相手だ。
しかし来客のある店内での会話なので、自然改まった口調での会話を余儀なくされることになる。
「こちらこそ・・・・・。なにか打ち合わせですか。」
「はい、来月のフェアの件で。」
「そうですか。」
進みそうで進まない二人の会話に、ナミが口を挟む。
「その件で、ちょっとお時間を頂きたいんですけど、今どうですか、ロロノアさん。」
ナミの口からは普段呼ばれない姓をことさら丁寧な口調で言われてゾロは思わず眉を寄せそうになり、慌てて真剣な顔を作って答えた。
「ええと・・・・・、少しだけなら。」
「ありがとうございます。じゃあ、ちょっと場所を変えて・・・・・・・」
店内にいたほかのスタッフに後を任せ、来客たちににこやかに挨拶をしてから、ナミは男二人を従えてフロア通路へと歩き出した。
「ん~~、どこがいいかしらね?」
「なんだ、本当に打ち合わせか。」
場所を考えて首をひねるナミにゾロが驚いたように呟くと、くるりと振り返ったナミは心底馬鹿にしたような視線をゾロへと向ける。
「あのね、昨日言ったでしょ。フェアの打ち合わせでウソップが来るって。」
「ああ、言ってたな。」
「・・・・・・・・・・・ほんとに覚えてたんでしょうね?忘れてたんじゃないの?」
時折すれ違う客たちには聞こえないように小さな声でそんなやり取りをしながら、それでも二人ともちゃんと笑顔だったりするあたり、ゾロも立派なデパートマンになってきたと言えるだろう。
そんな二人を見ながら、ウソップが歩きながら辺りを見回している。
いつもは現場になかなか足を運べない立場であるだけに、他のショップの様子が気になるらしい。店内を熱心に見回している。
「ほら、ウソップ。きょろきょろしてないで!私だってあんまり時間無いのよ。」
「お、おう。えっと、どこかちょっと広い机とか無いかな。」
「広い机か・・・。」
それではゾロが業務をこなしているフロア奥のバックヤードの一角というわけにはいかないだろう。
「見て欲しい資料とかあるんだよ。ショップ内のディスプレイ変更も合わせてやりたいって案が出てるから、模型もあってさ・・・・・」
見れば、確かにウソップの両手はかなりの大荷物でふさがっている。
「社食・・・・・とか?」
ナミがゾロの意見を求めて視線を向けてくるのに、ゾロもちょっと考えてから言葉を返した。
「いや、この時間だと午後休憩の始まる時間だから、社食はけっこう混んでるかもしれない。」
ゾロの指摘に時計を見たナミが「そうね」とうなずく。
「でもほかにいい場所っていっても浮かばないし・・・・・、とりあえず社食行ってみる?」
そのとき、思案するように首をかしげるナミの背中のその先に、ゾロはきらりと光る姿を見つけていた。
「いや・・・・・・・・・・・、ちょっと待ってろ。」
視界に映ったその金色にふと思いついて、ゾロはオープン準備中のカフェスペースへと足を向けた。
「ごめんねー、サンジくん。」
「いえいえ~♪気にしないでどうぞ好きに使っていいですよ。」
お茶でもいれますね、とサンジが店奥のキッチンに入っていく。
その姿を追って、ゾロもキッチンへと足を向けた。
それでもさすがにキッチンへは入らず、出入り口辺りで立ち止まると、サンジに向かって声をかけた。
「おい。」
「ん?」
「悪かったな、助かった。」
「ああ。いいって言ったろ。どうせフロアの準備はまだこれからだし、今は俺しか来てねぇしな。」
テーブルと椅子だけは届いてるし。
サンジは何でもないように言って、お茶を入れる準備を始めた。
コンロに水を入れたケトルを二つ並べて火に掛ける。
なぜ二つ?と思いながら、ゾロは作業を続けるサンジの動きを見続けていた。
「テーブルとか、必要なだけ出して使っていいぜ。どうせ明日あたりからホールも準備始めるだろうし。」
壁に作られた棚の中から、いくつかのカップを取り出しながらサンジが言う。
シンプルな白で統一されているらしい食器類は整然と積み上げられて来週からの出番を待っているのだろう。
取り出したカップを調理台の一角に並べて置いて、サンジは注ぎ口から湯気を上げ始めたケトルの一つを手に取った。
何も入れていない空のカップに湯を注ぎいれる。
コンロに残されたもう一方のケトルはまだ湯気も上げていない。
沸かした湯の量が違うということか、と気がつきながらゾロはサンジの動きを眺めていた。
カップと並べて置かれた揃いのポットにも湯を注ぐ様子を見て、ゾロはふと首をかしげる。
「なに?」
ゾロの視線に気がついたように、サンジが振り返った。
「いや・・・・・・・・・・茶っ葉は?」
「あ? 」
お茶をいれるとナミに言っていたのに、とゾロが不思議に思っていることにサンジはようやく気がついたらしい。
自分の手元を見ているゾロに『ああ』と呟いてから、また手を動かし始める。
「お茶にもいろいろあるけど、紅茶は淹れてる途中でお湯の温度が下がりすぎると渋みが出ちまうんだ。だから、使うポットとかカップとかも出来るだけ温めておいて淹れ終わるまで温度が下がらないようにするもんなんだよ。」
説明しながらもサンジの動きは淀みなく流れるように続いている。
湯を入れた陶器のポットにカバーのようなものをかぶせておいて、サンジは引き出しから取り出した小さなスプーンをカップの一つにからんと差し入れた。
「スプーンも温めるのか。」
「ああ。蒸らした後でちょっとかき混ぜるのに使うだけなんだけどな。でも、そんなちょっとしたことで味がぜんぜん違ってくる。」
コンロに置かれていたケトルが小さな音を立て始めた。
そろそろ湯が沸くようだ。
フロアのほうからナミの声が聞こえる。ゾロを呼んでいるようだ。
「打ち合わせなんだろ、行けよ。」
「ああ・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・この紅茶は蒸らす時間が少し長いんだ。持っていってやるから仕事してろ。」
ナミの呼び声に逡巡したようなゾロの様子に何を思ったのか、ちょっとあきれたような笑みを口元に浮かべて、サンジはゾロをホールへと追い立てる。
手で追い払うようなしぐさまで付けられて、さすがにゾロがむっと表情をしかめる。
そんなゾロに向かって今度はにっかりと子供のように笑って、サンジはコンロへと向き直ってしまった。
その後姿を一瞬見つめてから、ゾロはようやくナミたちの待つテーブルへと足を向けたのだった。
ウソップの提示する資料やナミの説明を聞きながら、ゾロは必要事項を確認していく。
「期限としては問題ないと思うんだけどな。」
「間に合わせるわよ、ね、ウソップ?」
「や~、がんばるのは俺たちってことだよなあ・・・・・・・・いや、がんばるけどよ。」
「デパート側としてはどう?作業内容的にもこの日の閉店後から翌日の定休日にやらせてもらう感じになると思うんだけど・・・・・」
ナミのショップの簡単なディスプレイ変更の打ち合わせを進めていた三人の下にサンジがお茶を運んできた。
「お茶がはいったよ~。ここ置いてもいいかな、ナミさん。」
ナミの返答をまって、サンジが恭しいしぐさでその前にカップを置く。
紅茶だけではなく、小さなデザートの皿まで付けられてナミが歓声を上げる。
「きゃあ!ありがとう、サンジくん!おいしそう~。」
「いえいえ♪さあ、どうぞ遠慮なく召し上がれ~。」
にっこりとナミに笑いかけてから、サンジは男二人に顔を向けた。
「おまえらは?甘いもの、食うか?」
『そっちのおまえは?』と、そういえば名前も聞かれないままだったウソップに問いかける。
ナミに向けての丁寧なしぐさや愛想の良すぎるほどの笑顔とは裏腹なそっけない口調に、若干びびりながらウソップが頭を下げる。
「い、イタダキマス。」
「おう、どうぞ。」
口調は雑だがカップと皿を給仕する手つきはあくまでも丁寧だ。
そんなギャップを眺めていたゾロにも、サンジが声を掛ける。
「おまえは?食うか?」
問いかけられてゾロはサンジの手にするトレーに乗った最後の一皿を見る。
白い皿の上には茶色の小さなケーキが乗っている。チョコレートのケーキだろうか。
「・・・・・・・・・・食わない?」
ちょっとの間無言だったゾロに、サンジが首をかしげる。
「甘いものは苦手だったか?」
「いや・・・・・・・・・・・・。」
ゾロは甘いものが好きというほどではないが嫌いなわけではない。
だが、そんなことよりも気になったのは。
「・・・・・・・・・・お前が作ったのか?」
「へ?そりゃそうだろ。俺以外誰が作るってんだよ、今のこの店で。」
「じゃあ、食う。」
ゾロはサンジに向かって皿をよこせというように手を差し出した。
サンジはちょっと面食らったような顔でゾロを見返してから、トレーの上から皿を取るとゾロに向かって手渡す。
ケーキの乗ったその皿を受け取って自分の前に置いたゾロを、ナミもウソップもちょっと呆気に取られた感じで見ている。
「・・・・・・・・・・・・・サンジくんが作ったものなら、食べるんだ、あんた。」
「ああ?」
早速ケーキを食べようとしていたゾロが、ナミの言葉に意味が分からないというように顔を上げた。
「だって。今そう言ったじゃない。」
「・・・・・・・・それが、なんだ。」
「いえね、いつの間にそんなに仲良くなったのかと思って。ねぇ、サンジくん?」
「別に仲良くなんて!」
ナミの言葉に反応したのはサンジのほうだ。
大の大人の、しかも男同士で「仲良く」なんて言葉を使われて、どう返したら分からなくなっているようだ。
「だって、昨日の朝が初顔合わせだったのにね?」
「や、えっと、それはですね」
「あの後、メシ食わせてもらった。」
ナミの追求に言葉がうまく続かないらしいサンジの声にかぶせるように、ゾロがさらりと言う。
「えっ、いつの間に?」
驚くナミの様子に、サンジのほうがちょっと焦ったように視線をウロウロさせている。
そんなサンジの様子には構わずに、ゾロは言葉を続けた。
「昨日、休憩時間がずれてメシ食えなかったんだよ。そしたら・・・・・・・・・・食わせてくれたんだ。」
「へえ・・・・・。」
どこか面白がるような顔つきで、ナミがゾロとサンジを交互に眺めている。
「で、どうだったの?」
「あ?」
「美味しかったの?」
ナミに聞かれて、ゾロはいまさら気が付いた。
そういえば昨日この店内でサンジの作ったランチを食べたとき、何も聞かれなかたっと言うことに。
『試食』と言っていなかったか、この男は。
なのに、食べたゾロの感想は何も求めてこなかったのだ。
そのことに今になって思い当たって、ゾロは思わずケーキに向けていたフォークを止めてテーブルの脇に立ったままのサンジを振り仰いだ。
「おい。」
「へ?」
なんだか落ち着かなげに立ち尽くしていたサンジは、突然声を掛けたゾロに戸惑ったような声を出してようやく視線をゾロへと向けてきた。
その彼に向かって、ゾロは何の迷いもなくさらりと思ったことを口にした。
「美味かった。」
「・・・・・・・・・・・・・は?」
ぽかん、とサンジが口を開けたまま固まった。
「美味かった、昨日のメシ。」
「・・・・・・・・・・・・・・お、おう。」
それだけ言って、ゾロは目の前のケーキにまた向き直る。
あのメシを作った男の用意したケーキなら、きっと美味いだろうと思った。
だから、思わず「おまえが作ったのか」と確認したのだ。
ゾロはフォークを持ったままの手を、ぱんと軽く合わせた。
「いただきます。」
礼儀正しくそう言ってからケーキに手をつけたゾロに、その場で置き去り状態だったナミとウソップも慌てたように声をそろえる。
「いただくわね、サンジくん。」
「い、イタダキマス。」
「あ、どうぞ・・・・・。」
こうして、どこか微妙な空気のオープン前のカフェ店内で、ティータイムが始まったのだった。
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第3話です。
思っていたよりも長くなってしまったので、ここで一回切りました。
出来るだけ早く続きをアップしたいと思っています。
少しずつキャラクターが揃い始めました。
もちろん船長もロビンちゃんも船医さんも出てくる予定です。
サンジのご飯を素直に「美味しい」と言うゾロ、というのが、私の中でのちょっとした萌えだったりします。