[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
まだお茶の時間です。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
『Tea time Meeting 2』 GL Department store シリーズ Vol.4
ケーキを綺麗に平らげた三人に、サンジは絶妙のタイミングで紅茶のお代わりを注いで回ってくれる。
ケーキはもちろん、丁寧に淹れられた紅茶はとても美味しくて。
礼を言ってそれを受け取りながら、ナミはふと気がついたようにサンジを見上げた。
「ねぇ、ここの準備ってどうしてサンジくんしか来てないの?」
カフェのオープン予定はもう来週末に迫っているのだ。
内装工事は終わっているとはいえ、テーブルの設営などの仕上げはまだこれからのような店内を見回しながら、ウソップも首をかしげた。
「来週末オープン?間に合うのか?」
「ん?ああ、あとはそうたいした準備はねぇし。ホールスタッフの研修は来週入ったら始めることになってんだよ。俺以外の厨房スタッフは、今は本店で研修受けてるし。」
そうして自分も店内をぐるりと見渡しながらサンジが続けた言葉に、ゾロとナミが『ん?』と疑問を抱いた。
「ホールのほうも、明日から手ぇ入れることになってるし・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・明日?」
確認するように鸚鵡返しにするナミに、サンジのほうも首をかしげている。
そういえばさっきそんなことを言っていたか、とゾロも思い出してちょっと顔をしかめた。
「うん、明日。明日ってデパート休みなんですよね、それならちょっとバタバタしてもお客さんに迷惑かからないしと思って・・・」
言葉を続けながらサンジも様子のおかしいゾロとナミの様子に気がついたようだ。
「え・・・っと、なにか・・・・・・・・・・マズイ?」
「マズイっていうか・・・・・・・・・・・明日『休み』なのよ、サンジくん。」
「うん、知ってますよ? 」
『それがなにか?』的な返答をするサンジに、ナミが困ったように笑う。
「あのね。このデパートって『店休日』が月二回決められてるのは聞いてるわよね。」
「ええ、隔週の水曜ですよね?」
「そうよ。それで、その日は『ちゃんと休む』って言うのが決まりなの。」
「えー・・・・・・・・・・・・と、それはどういう・・・・・・」
「だから、店内には入れないわ。」
簡潔に事情を説明したナミの言葉に、サンジが一瞬黙り込む。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「明日は全従業員が休む日なのよ。店内は立ち入り禁止。」
「・・・・・・・・・・・えぇっ?!そうなのかっ?」
慌てた様子でサンジがゾロを見る。
それに向かってうなずき返して、ゾロは飲み干した紅茶のカップをソーサーに戻した。
「基本的にはな。そういう決まりになってる。」
「えぇ~・・・・・・・・・、知らなかった・・・。」
こういうところって休みの日こそ何か作業とかしてるもんだと思ってたのに・・・と、どこか呆然と呟くサンジにナミがちょっと気の毒そうに続ける。
「どうしても出勤したいときは事前申請が必要なのよ。」
「事前申請・・・・・」
「許可を取って、立ち会う社員を決めないといけないし。」
「・・・・・・・・・・・・じゃあ、今からじゃ・・・」
「うーん、無理でしょうねぇ。」
「そんなぁ・・・・・。」
ようやく事情が飲み込めたのか、サンジのくるりと巻いた眉がへにゃりとしなだれるように下がった。
情けないその表情にナミが苦笑する。
「私たちも来月の店休日に作業がしたいから、こうやってゾロと打ち合わせしてるってわけなのよ。」
「そうなんだあ・・・・・。」
サンジはがっくりと、あからさまに肩を落としている。
その様子を見ていたゾロが一瞬の逡巡の後、口を開いた。
「・・・・・・・・・・・・おい。」
「ん? 」
「どうしてもって言うなら、付き合うぞ。」
「へ?」
「明日。俺が立ち会えばたぶん大丈夫だ。」
『他のフロアには出勤者もいるはずだし』と説明するゾロに、サンジはちょっとびっくりしたように目を見張ったが、すぐに表情を改めてふるふると首を振った。
「いや、いい。」
「・・・・・・・・・・・なんでだ。」
「ルールを知らなかった俺がいけないんだ。だから、それは世話にはなれない。」
やけにきっぱりと言い切るサンジに、ゾロもそれ以上の言葉を続けられずに口を閉じた。
でも、やはり自分が立ち会うといえば、店休日の作業の許可は今からだってきっと下りる。
そう思えば言わずにいられなくて、ゾロは傍らのサンジを見上げて続けた。
「・・・・・・・・・・・ルールを通達してなかった俺たち『館』側のミスでもある。」
「んー、まぁそうかも知んねぇけどさ。」
デパート社員の自分たちからの連絡ミスが原因なのだろうから自分が休日返上で店に出れば済むことだろうと、ゾロとしてはある意味気軽な気持ちで提案した程度の態度を装ったつもりだった。
けれど、サンジはやはり『いい』と首を振る。
なぜ自分の気持ちが伝わらないのかと、ちょっと苛立ちを感じたゾロは、その次の瞬間にはそんな苛立ちを感じた自分に戸惑いを覚えて、再度口を閉じることとなった。
「ま、どうしても明日作業させてもらわなきゃ間に合わないってわけでもないし。」
『大丈夫』と、サンジはさらりと口にして、ついで「にかっ」と笑った。
ゾロに向かって。
「そーーっと静かにやれって言えば、作業に来る野郎たちもおとなしく作業できると思うし。だったらデパートの営業日でも問題ないだろ?」
サンジが笑顔を見せた瞬間、ゾロは『ああ』と至極あっさりと自分の気持ちに気がついた。
自分は喜ばせたかったのか、こいつを。
それは本当に自然と納得できたほど明らかな感情で、だからこそゾロは目の前のコックコートの彼から目が離せなくなっていた。
メシを食わせてもらったから、とか。
打ち合わせスペースを貸してもらったから、とか。
うまい紅茶とケーキを用意してもらったから、とか。
知り合ったばかりだというのに。自分はいろいろなものをサンジから渡されていることに、ゾロだって気がついていたのだ。
だから、何かを返したくて。
せめて自分の立場で出来ることをしてやりたいと思ったのに。
こいつはあっさりと断るのか。
サンジの断り方があまりにも潔かったせいだろうか。
それを残念に思うどころかどこか爽快に感じている自分を、ゾロはまるで他人事のように感じていた。
このさりげなく、けれど芯の通った態度はきっと彼の性質そのものなのだろう。
「あ。ねえねえ。それじゃサンジ君も明日はお休みでしょ?」
ナミがつかの間止まってしまっていた会話をさらりと動かし始める。
こういう場の空気をさりげなく読み解くところが彼女の才能の一つだとゾロは認めているのだが。
しかし、ナミが続けて言い出した一言にさすがに驚いて目を見張った。
「サンジくんも一緒にどう?」
「一緒に?」
「ええ。今夜、閉店後に飲みに行く予定なのよ、私達。」
さすがにその誘いは唐突に感じたのか、サンジもちょっと驚いたようにナミを見ている。
「ええとそれはどういうメンバーで・・・」
確認するように問い返しながらも会話の流れでなんとなく察してはいるのだろう。
サンジがゆっくりとナミからウソップへと、そしてゾロへと視線を流してきた。
「私とウソップとゾロの三人でね。」
このすぐ近くにちょっといい居酒屋があるのよ、ナミが言うのに傍らでウソップもうなずいている。
「小さい店なんだけどな。酒もうまいし何より魚がうまいんだぜ~。刺身も美味しいし焼いたのとか揚げたのとかいろいろあるんだ。」
「三人で予約入れたんだけど、席はもともと四人掛けだから問題ないわ。ね、どう?」
ナミとウソップの誘いに『そうだなあ』と笑いながら呟いて、サンジはふとゾロにもう一度視線を戻してきた。
自分を見上げていたゾロに向かって、サンジはちょっと考えるように首をかしげるように傾けてどこか迷うような笑顔をして見せた。
これもゾロが始めて見るこのコックの笑顔だった。
「え・・・・っと、お前も行くんだ?」
「・・・・・・・・・・・おう。」
短く答えたゾロに、サンジはちょっと間をおいてから続けた。
「あー・・・・・、俺も行ってもいい・・・のか、な。」
「もちろんよ、ねぇ、ゾロ、ウソップ。」
「おお、行こうぜ~。」
楽しげに答えるナミたちに笑顔を返してから、サンジはもう一度ゾロを見た。
ゾロの返答を待つようなその様子に、ゾロは小さくうなずいて見せた。
「お前の予定が問題ないなら。」
『行こう』と誘うゾロの言葉に、サンジはまた子供のような笑顔を見せたのだった。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
ちょっと短めですが、とりあえず第4話です。
なんかこのシリーズのコックさんは良く笑う人みたいです。
いいよね、笑顔の似合うコックさん。
そしてその笑顔にしらずしらずのうちに嵌っているゾロ(笑)。
でもコックさんはまだ周りに遠慮しているので、愛想笑いも含まれている気が(笑)。
早く本音で会話させてあげたいです。