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少し前に予告していた、チョッパーとサンジとゾロのお話です。
思いのほか長くなってしまいました。
しかも「未満」じゃない人たちになってしまいました。
予想外です(苦笑)
たいしたことはしていないのですが。
それでも大丈夫という方は、どうぞ読んでみてください。
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『理由』
「・・・・・・・・・・・・え?」
突然向けられたチョッパーからの問いに、サンジは言葉に詰まった。
考えたことなかった、というのが正直なところだ。
だが、そう答えてしまうのはいけないような気がして、サンジは固まったまま必死に思考を巡らせ始めた。
夕食後の片づけをしていた両手は、シンクの上で泡だらけの皿を握り締めて止まってしまっている。
「あ。ごめん、オレ、なんか聞いちゃいけないこと聞いた・・・?」
いつも明快に言葉を操るサンジの思いがけない様子に、問いかけたチョッパーのほうも「しまった」という表情になった。
夕食後のラウンジにはサンジと話したかったチョッパーと、そして晩酌を続けていたゾロの三人だけだ。
キッチンにいるサンジの顔が見えるようにと思って、ダイニングテーブルのキッチンカウンター正面の位置に座っていたチョッパーは、椅子の上でその身体をそわそわと揺すり始めた。
そのチョッパーからいくつか椅子を挟んで、やはりキッチンの見える側に座っていたゾロはそんな二人の様子に口を挟むこともなく、ただ黙ってグラスを傾けている。
「あ、あの、いいんだ、無理して答えなくって。ごめんな、オレ・・・」
「や、違う、違うって。別に無理とかじゃなくて・・・・・・・」
泣きそうなチョッパーの声に、はっと我に返ったサンジが慌てて口を開いた。
「あー・・・・・・・、えっと、なんて言うのか、な・・・・・、とか思ってな。」
聞かれちゃ困るとかじゃねぇよ、とサンジが笑って見せると、チョッパーはようやくほっとしたように身体の動きを止めた。
「えー・・・と、なんていうか、言葉に・・・・しようと思ったことない・・・・っていうかさ。」
苦笑いをしながら言葉を探す風なサンジに、チョッパーがちょっと考えるようにしてから答えた。
「言葉にするのは難しい、ってヤツか?」
「おお。そうそう、そういう感じ!」
どこかほっとしたような笑顔を浮かべる、いつもの彼らしくないサンジの様子にうろたえていたチョッパーは、ふいに傍らからの強い意志を持った視線を感じて、チラリと少し離れたところに座っているゾロに視線を流した。
図ったようなタイミングでチョッパーとゾロの視線が合う。
ゾロは二人のやり取りにまったく関心がないように晩酌を続けている様子だったけれど、それでも一瞬そちらを見ただけのチョッパーと目が合ったということは、ずっとこの会話の流れを気にしていたということか。
チョッパーと視線が合った瞬間、ゾロは小さく、本当にかすかに首を左右に動かした。
たぶん、サンジには分からない程度に。
それを見て、チョッパーは何かが心の中にすとんと落ちてきたような気持ちになった自分に気が付いた。
------------- 『理由』なんて、それこそ人それぞれで、だから違っていて当たり前だし、話したいと思わない人に無理に言葉にさせてもなんにも意味無いんだ。
「あ・・・・・・・・、なんかオレ眠くなってきたよ。ごめん、サンジ。話すのまた今度にしてもいいか?」
「え・・・?あ、ああ、そうだな。眠いならもう寝ろよ。」
「うん。お休み、サンジ。」
「ちゃんと暖かくして寝ろよ。おやすみ、チョッパー。」
「ゾロも・・・・・・・・おやすみ。」
「ああ、おやすみ。」
いささかわざとらしいくらいにチョッパーが話を急に切り上げにかかっても、自分の思考に気をとられたままのサンジにはさほど不自然には映らなかったようだ。
それどころかほっとしたように表情を緩めて、ラウンジを出て行こうとするチョッパーを見送る。
居合わせたゾロにもお休みと告げて、チョッパーはそそくさと扉から出て行った。
小さな船医の後姿が閉められた扉の向こうに消えても、サンジはしばらくシンクの前で動きを止めたままだった。
そんな様子を視界の端に収めながら、ゾロは黙ってグラスを傾ける。
グラスを満たしていた酒がなくなって、残った氷がカランと高い音を立てた。 その音にサンジがはっと我に返ったようにゾロを振り返った。
「あ、ああ。酒なくなった?」
「・・・・・・・・・おう。」
「悪い、気がつかなかった。」
『まだ飲むよな』と言いながら、サンジは洗い物の途中で泡だらけだった手をきれいにしてから冷蔵庫であらかじめ冷やしてあった度数の高い蒸留酒の瓶を取り出してゾロのほうへとカウンターを回ってきた。
テーブルの上のグラスに酒を注いで、またキッチンに戻ろうとするサンジの腕をゾロがつかんで引き止める。
引かれた腕に抗うことなく、サンジはすとんとゾロの隣に腰を下ろす。
サンジが素直に椅子に座ったことを確かめて、ゾロは掴んでいた手を離すと目の前に置かれたグラスに手を伸ばした。
サンジが、手にしていた酒瓶をテーブルに置く。
しばらく無言で瓶の表面を意味もなく指で辿ったりしていたサンジは、ふいに「はぁ・・・」と大げさなほどに声に乗せてため息をついた。
「まいったなあ・・・・・。あんなこと、聞かれるとか考えたことなかった。」
しかし質問されたことを不快に感じているとか言うことではないらしい。ただ本当に困惑しているという口調でつぶやくように続けるサンジに、ゾロは黙ったまま視線を向けた。
それに『へへ』と苦笑のように笑って見せて、サンジはそのままぱたりとテーブルに突っ伏すように顔を乗せる。
「言葉にするのが難しいとかじゃないんだろ。」
しばらく突っ伏した体勢で口をつぐんでいたサンジに、ゾロがゆっくりと口を開いた。
驚いたように、サンジはテーブルの上になついたまま、顔をゾロの方へと向ける。
見上げてくる視線に自分の視線を合わせて、ゾロは続けた。
「考えたこともなかったんだろ、本当に。」
「・・・・・・・・・・そ・・・だな。」
『なあ、サンジはどうして強くなりたかったんだ?』
チョッパーからのいきなりの質問は、本当にきっと何の他意もない純粋な疑問だったのだろう。
ドラムの雪山の中でたくさんの葛藤を抱えてただひたすらに自身の成長を願い努力し続けてきたあの小さなトナカイにとって、突然目の前に現れて思ったこともない『強さ』を見せてくれて、そしてかなり強引な勧誘の挙句に自分をあこがれていた広い世界へと連れ出してくれた麦わらのクルー達は、彼の中にきっと憧れの存在として焼きついていて。
その後いくつかの戦いをともにして、ルフィだけじゃなくほかのクルー達のそれぞれの強さを目の当たりにしてますますその思いを強くしているのだろう。
ここ最近のチョッパーがほかのクルー達にも「なぜ強くなりたかったのか」というような質問を投げかけていたことをゾロは知っている。
けれどそれは「どうやれば自分ももっと強くなれるのか」を知りたい彼の、「早くもっともっと強くなりたい」と願うあのトナカイの純粋な気持ちの表れなのだとクルーは皆理解していた。
だから、チョッパーからの問い掛けを受けた他のクルー達は、みな自分がこの船に乗るまでの出来事などを絡めたりしながらこれまでの経験などを語ってやっていたらしい。
ただ、ゾロはまだ聞かれていなかった。特に聞く順番があったとか言うことではなく、いつも忙しくしているサンジにはなかなかきっかけが掴めなかっただけだろうし、ゾロに対しても日中は鍛錬に励んでいるか昼寝しているかだからタイミングがなかっただけという程度だろう。
けれど、チョッパーがそんな質問を皆にしていると知ったとき、ゾロは自分のところにチョッパーが来たらあのコックには聞いてやるなと遠回しに止めるつもりでいたのだ。
船の中では誰よりも忙しく立ち働いているコックのことだから、きっとチョッパーからの質問を受けるのは最後になるだろうと考えていたから。
だから、今夜の夕食後のラウンジにチョッパーがいつまでも残っていたときに、もしかしてという思いがよぎって、ゾロは内心ちょっとしまったと思っていたのだった。
きっとコックはこの質問に対する答えを持っていないだろうと、ゾロには分かっていたから。
「・・・・・・・・・・・・・強く・・・・・なりたくないわけじゃねえけど・・・」
ぽつり、とサンジが口を開いた。
視線はいつの間にかゾロから逸らされて、どこか遠くを見るように揺れている。
「強くなるためにって、思ったこと、ないんじゃないかなあ・・・・俺。」
サンジは根っからの料理人だ。
料理人として過ごしていた場所が場所で、環境が環境で、そして来し方が来し方だったから、こんなにも「強い」というだけで、強さを目指して何かに励んできたわけではない。
麦わらのクルーがあの海上レストランに向かわなければ、あの場であんな戦いにならなければ、サンジは今でもあのレストランで料理人として高みを目指して日々を過ごしていたに違いない。
そしてその生活には、「強さ」を目指すようなそんな要因は含まれなかったに違いないのだ。
「強くなりたいってだけ考えて何かをしたとかって、きっと俺ないなあ・・・・・。」
そのことをどこか後ろめたく感じているような、そんな頼りない声でサンジはつぶやく。
そんなサンジの様子を見ていたゾロは、手にしていたグラスをテーブルに置くと、右ひじをテーブルについて手で顎を支えるようにすると、自分の左隣に腰掛けてテーブルに突っ伏したままのサンジをじっと見下ろした。
「なんかなあ・・・・・。気がついたらクソコックどもとか、店来て問題起こすやつらとか蹴り飛ばしてたっていうか・・・蹴り飛ばせるようになってたっていうか・・・・・」
自分でも自分の「強さ」がどういうものなのか不安になったとでもいう様なサンジの様子に、ゾロはちょっと苦笑を浮かべた。
「おまえは、だけど闘うだろう?」
「へ?」
唐突なゾロの言葉に、サンジがぱちりと目を瞬かせてゾロを見上げる。
ようやく戻ってきた視線を捕らえたまま、ゾロは続けた。
「レストランの時だってそうだった。なんか変な客居たろ、あん時。」
「あ?ああ、居たっけ・・・?」
「あん時だって、お前は他の誰にも任せず、自分が出てって片付けちまうだろ。」
「・・・・・・・・・・・見てたの、お前。」
「メリーからな。なんか海軍のヤツが騒いでるから様子見ようってウソップが言い出して、しばらく見てたんだよ。」
ふうん、とサンジがつぶやく。
それに向かってゾロはそれまでとはまた違った笑みを浮かべてサンジを見た。
自分のことを話されているのにまるで関心のないようなその様子。それがとても「彼らしい」とゾロは思った。
「俺はあの後『鷹の目』に挑んで先にあそこを出ちまったから、次に会ったのはナミの島だったけどな。」
「・・・・・・・・・・そう、だったな・・・」
「あんときだって、お前はまず自分が行こうとしただろ。」
自分も思い出すように、そしてサンジにも思い出させるように言葉を紡ぐゾロに、ちょっとサンジがすねた様な顔になった。
「・・・・・・・・・・無謀だとかって言うのかよ。」
「違う。」
合わせたままの視線をちょっと強くして、ゾロはきっぱりとサンジの言葉を否定した。
「おまえはまったく出来もしないことを勢いだけでやろうとするほどの無茶なやつじゃねぇ。それくらいは俺にだってわかってる。だけど、お前が自分自身のなかでどこまでが『自分に出来ること』だと思っていて飛び出すのかは、正直俺にはわからない。」
日ごろのゾロと比べたら驚くほど饒舌な彼の様子に、サンジは驚いたように彼の話に聞き入っている。
「きっとそれはお前だけじゃない。他の誰だって、『どれだけ出来ると思ってる』のかなんてそいつ自身にしか分からないし、もしかしたら本人にも分かっていないのかも知んねぇ。」
けどな、とゾロはいったん言葉を切ってじっとサンジを見つめる視線を強くした。
「それでも自分自身を信じてるからお前は飛び出すんだろ。強いとか強くなりたいとかそんなこと考えてもいなくても、お前は俺たちの行く手に立ちはだかる相手に挑んでいくんだ。それがお前の『強さ』だと俺は思う。」
一瞬、驚いたように目を見開いてから、サンジはくしゃりと表情を崩した。
泣き出すのかとも、笑うのかとも取れるその顔に、ゾロはそっと左手を伸ばしてテーブルの上にこてんと乗せられたサンジの頭に触れた。
するりとした手触りの髪を少しだけ指先に掬い取る。
「チョッパーがあんなことを聞いたのはてめぇを困らせるためじゃねえよ。」
「・・・・・・・・・・・・わかってるよ、それくらい。」
「そうか。」
剣士らしくない優しい慎重な手付きに髪を梳かれるままにされながら、サンジはテーブルの上からゾロを見上げた。
「チョッパーは・・・・・強くなりたいんだな。」
「ああ。でも『強くなる』ことがあいつの最終目標じゃない。それはチョッパーもちゃんとわかってるだろ。」
「そうだな・・・・・。」
チョッパーの目標が偉大な医者になることだというのはチョッパー自身にも、仲間達にも伝わっている大きな彼の夢だ。
その過程として彼はこの船の一員としてメリー号に乗ることを選んだから、仲間達のように強くなりたいと望んでいるのだ。
ともに旅をする仲間として、皆に劣らずに肩を並べられるように、と。
でも今はまだ自分が未熟な子供だと理解しているから、焦る気持ちが仲間達にあんな質問を向けさせたのだろう。
「自分がどんなもんかをちゃんと理解できてるヤツは、ちゃんとその先へ進んでいけるだろうよ。」
ゾロの言葉に、サンジの顔に笑みが戻る。
「なんだよ、それ・・・・・。オッサンとかジジイとか、もっと歳いったヤツが言う事なんじゃねえの、そういうのって。」
「・・・・・・・・・・・・・昔、俺の師匠が言った言葉だ。」
「パクリか。」
道理で、とサンジが笑う。
ゾロはちょっとむっとしたように眉を寄せて、でもサンジの髪を梳く手は止めない。
「・・・・・・・・・・・・・・・俺はさ、もっと強くなれればいいな、とは思うぜ。」
「そうか。」
「お前は、『強くなる』のが目標・・・野望だもんな。」
「おう。」
「お前からみたら、俺の『強くなれたら』なんて気持ちは取るに足りないようなちっぽけなモンなんだろうけど。」
『そんなことはない』と言おうとして、でもゾロは何もいわなかった。
目指すものが違う自分達には強さに対する思いも違っていて当たり前なのだと、ゾロもサンジもちゃんと分かっているから、そんな言葉は必要ないだろうと思ったのだ。
「でもさ。俺の『夢』はもうこの船に乗っけちまったからさ。お前達と一緒にこの船で『オールブルー』を見つけるんだって決めちまったから。だから、この船がこの先へ進むために必要なだけ、俺はきっと強くなる。」
ずっとこの船とこの仲間達と共に進んでいけるように。
ついさっき見せた少し気弱げな表情などきれいにかき消して、サンジはゾロに向かって笑う。
「チョッパーだって、きっと強くなるよ、あいつが望んでそうありたいと努力し続ければ、すぐだ。」
「そうだな。」
ただ、きっと今のチョッパーが目指すものは彼が自分を知れば知るほど、そして『強く』なればなるほど、更なる高みを目指すための一歩でしかないのだと、そう気がつくための一段階でしかないのだ。
終わりなんてきっと来ない。
自分達の『冒険』はきっとそういうものだ。
ふいにサンジがテーブルから身を起こした。
ゾロの前に置かれた空のグラスに手を伸ばす。
「もう少し飲むだろ。氷入れてやるよ。」
グラスを手に立ち上がろうとするサンジの後ろ髪を捉えるように、それまでその光る髪を梳いていたゾロの左手が彼を引き止めた。
首の後ろに手を添えて、そのまま少し力を入れ引き寄せるようにすれば、サンジは逆らわずにゾロのほうへと顔を寄せてきた。
唇が触れる瞬間、サンジがふと目元を笑わせたのが見えて、ゾロも口元に笑みを浮かべる。
触れるだけの一瞬の口付けはすぐに離れて、サンジはそのまますいっと立ち上がってキッチンへと向かう。
冷凍庫から氷を出しながら、サンジが笑うような声で言った。
「なあ、俺たちはみんな『強い』よなあ。」
ゾロもちょっと笑って答える。
「ああ、そうだな。」
「みんなして強くて、でももっと上を目指してて。俺たちって最強だなあ。」
歌うようにつぶやいて、サンジがテーブルに戻ってくる。
ゾロの隣にもう一度腰を下ろしながら、サンジはゾロの顔を覗き込むようにして笑った。
「なあ、この船に乗って良かったな。」
すごい秘密に気がついたとでもいうような、どこか子供みたいな顔で笑うサンジの頭をぽんぽんと軽く叩いてから、ゾロも笑った。
「ルフィに感謝だな。」
そうとだけ答えて、ゾロはサンジが新たに満たしてくれたグラスの酒に口を付けた。
目指す場所に辿り着くために。
望むものになるために。
そのためにこの船に乗り、そして出会った仲間達と共に進む毎日こそがきっと『強さ』の理由になるのだと、あの小さな船医が気がつく日も遠いことではないだろう。
END
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チョッパーが仲間に加わって少し後くらいの感じ。
あの子はきっと仲間達の強さにものすごくあこがれてるだろうなあと思ったのが
この話を書こうと思ったきっかけです。
そして私がワンピースをはじめて読んだときからずっと思っていることも書いてみたくて。
コックさんはなんであんなに強いんだろう、とずっと疑問に思っています。
別になんかの修行をしているわけでもないのに。
2Y後はまあ修行後ですけれど。
でも本当に今でも、すごく不思議で、実は彼の設定には何か秘密があったりするんだろうか、とかどきどきしてたりします(笑)
あの眉毛の形とか・・・ね。
あー、しかし途中でゾロがコックさんのことを何もかも分かったような立ち位置になってきちゃったので、「あ、この人たち『未満』じゃないな?」(なぜ疑問形)と思ったりしたら、つい最後があのようなことに。
止まりませんでした・・・・・・・・・・・ゾロが(笑)
いつかこの人たちの馴れ初めを書きたいです。